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広島高等裁判所 昭和30年(う)475号 判決

控訴人 原審検察官

被告人 脇村九市

主文

原判決を破棄する。

本件を山口地方裁判所に差し戻す。

理由

山口地方検察庁検察官検事中根寿雄の控訴の趣意は記録編綴の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

職権を以て調査するに、本件は、山口地方裁判所に起訴せられたもので、起訴状によれば、本件公訴事実は、要するに被告人は昭和二九年一月二七日頃から同年一〇月二七日頃までの間に前後二十六回にわたり公衆衛生上及び公衆道徳上有害な業務である売淫婦として就労させる目的で待合業者等に対し婦女子の職業紹介をしたものであるというのであつて、その罪名は職業安定法違反、罰条は同法第六三条第二号と記載されており、これに対し原審は裁判官稲光一夫の単独構成を以て審理した上、公訴事実と同趣旨の事実を認定し、これに同法第六三条第二号を適用して、被告人を判示第一ないし第一一、第一二ないし第一八、第一九ないし第二六の各罪につきそれぞれ各罰金二万円に処する旨の判決を言渡したことが認められる。ところが、職業安定法第六三条の法定刑は一年以上十年以下の懲役又は二千円以上三万円以下の罰金であるから、同条違反につき簡易裁判所が罰金刑を選択して処断する場合第一審の裁判権を有することは裁判所法第三三条の規定に照らし自明であるが、地方裁判所が第一審としてこれを審判する場合合議制の裁判官を以てすべきか、はた又単独制の裁判官によつても審判することができるかの点については、右の法定刑が懲役刑の短期を一年以上としながら罰金刑を選択し得ることになつているため、裁判所法第二六条第二項第二号の文理解釈上疑問なしとしない。しかし、同号の短期一年以上の自由刑にあたる罪をいわゆる地方裁判所の第一審法定合議事件とする法意が、かかる法定刑の重い罪については合議制の裁判官を以て慎重に審判せしめることにより被告人の利益を擁護せんとするところにあると解すべきは明瞭であるから、職業安定法第六三条の法定刑に選択刑として罰金刑があり、且つその故に本件の如く具体的場合において地方裁判所が同条違反の罪に罰金刑を選択して処断することありとするも、懲役刑が選択せられるにおいては原則として一年以上の懲役に処せられる可能性のあることを予期しなければならないから一般的抽象的には同条違反の罪を裁判所法第二六条第二項第二号の地方裁判所第一審法定合議事件とすることが同号の趣旨に副うものと解する(同旨、福岡高等裁判所昭和二九年(う)第三九号事件同年三月一八日判決、大阪高等裁判所昭和二九年(う)第二三一九号事件昭和三〇年四月一五日判決、東京高等裁判所昭和三〇年(う)第二一〇〇号同年一一月二九日判決)。してみると、本件を単独制の裁判官を以て審判した原審には法律に従つて判決裁判所を構成しなかつた違法があるものといわなければならない。

よつて検察官の控訴の趣意に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条第一項第三七七条第一号に従い原判決を破棄し、同法第四〇〇条本文によつて本件を原裁判所に差し戻すべきものとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高木常七 裁判官 尾坂貞治 裁判官 池田章)

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